9/29/2010

心筋梗塞

ある中高年の男性が山登りをしている最中に突然胸の痛みを訴え、ドクターヘリで搬送されたが病院で死亡が確認されたとの回覧が回った。
享年59歳だったそうである。
同年齢ということを考えると人ごとではない。
それで解剖学の授業を思い出し心筋梗塞のおさらいをしてみた。

心臓の役割
 心臓の役割は、ひとことでいうと全身に血液を送るポンプである。

心臓はどうして動くのか
 心臓を動かすためには、刺激伝導系と呼ばれる一定間隔で電気パルスを発する発振回路(特殊心筋)と、その電気パルスを受けて実際に心臓を動かす心筋(固有心筋)が関与する。

冠動脈
 心筋も血液から酸素を供給され活動のエネルギーを得る。
従って、血液から酸素が供給されなくなったとしたら冠動脈が壊死し、心臓は停止する(虚血性心疾患)。これが心筋梗塞である。
この心筋に血液を供給する血管が冠動脈であり、右冠動脈、左冠動脈がある。
さらに、左冠動脈は2つの枝に分かれる。それぞれに栄養する部位を分担している(※)

心筋梗塞の症状
 いわゆる「胸の痛み」であるが、「胸が苦しい」「重い感じがする」などと訴える場合も多いので鑑別の注意が必要。
また、同様の疾患で「狭心症」があるが、狭心症は、胸の痛みなどが数分から十数分程度であるのに対して、心筋梗塞は、安静にしていても30分以上症状が持続する。
さらに、左肩や顎への放散痛は特徴的とされる。
ただし、糖尿病患者では痛みなどの症状が認識されにくく、めまい、嘔吐、心窩部痛など不定愁訴を訴える場合があり、鑑別に注意が必要である。

心筋梗塞の治療
 医学的治療は、専門医に任せて、一般的には、絶対安静が原則となる。
そして、心筋梗塞ではないかと思われる患者に遭遇した場合は、患者から目を離さずに直ちに救急車を呼ぶこと。
患者が意識をなくし、更に脈拍を触れない場合には、即座に心臓マッサージを行うことが肝要である。

心筋梗塞の原因と発症因子
 一般的に考えられる原因には、動脈硬化(アテローム性動脈硬化、細動脈硬化)や血栓などがある。
アテローム性動脈硬化は、いわゆる粥状の隆起が動脈の内側に発生し、それが突然破れて、血管をふさい(血栓)だり、あるいは細動脈を詰まら(塞栓)せる場合をいう。
 これらの原因を引き起こすものとして考えられるものを列挙する。

・喫煙
・高コレステロール血症(特に高LDLコレステロール血症)
・糖尿病
・高血圧
・狭心症・心筋梗塞の家族歴
・加齢
・ストレス
・肥満
・性(女性より男性に多い)
・痛風(高尿酸血症)
・血液透析(※)
・高ホモシステイン血症

心筋梗塞にならない為に!
 一般的に記載するならば、「タバコを止め、減量する。脂濃い食事を控える。ストレスを解消する方法を見つける。」などだろう。
 NHKの番組「名医にQ-高血圧-」でホモシステインと高血圧の関係を放送していた。
 それによると、高血圧を防ぐ為には「葉酸」を適量取ることが良いそうだ。サプリメントを取ることも予防手段のひとつとなろう。
 もちろん、相変わらずの不摂生を続けていては、サプリメントも効果が無いことは言うまでもない。


※洞房結節、房室結節、His束、右脚、左脚プルキンエ線維を合わせて刺激伝導系と呼ぶ。

※冠動脈
 右冠動脈は洞房結節、房室結節、右心室、心臓の後壁および下壁を栄養。
 左冠動脈前下行枝は心室中隔、心臓の前壁、心尖部を栄養している。
 左冠動脈回旋枝は心臓の左側壁、左後壁を栄養している。

※長期透析患者は、主にビタミンD活性化障害のため低カルシウム血症になりやすく、骨を壊す破骨細胞が活性化される。
骨からのカルシウムの放出が増大すると異所性石灰化(骨ではない場所にリン酸カルシウム(骨の主成分)が沈着してしまうこと)が起こりやすくなる。
その為、動脈硬化性病変の進行を促して、心血管系や脳血管系の障害発生の確率が高くなる。
※ホモシステイン:必須アミノ酸のひとつであるメチオニンの代謝における中間生成物。

9/16/2010

脈と寿命

東洋医学で脈と言えば、次の6種類が基本とされる。
即ち、脈位:『浮、沈』、速さ:『遅、数』、強弱:『虚、実』である。
ところで、脈が速いと短命であると聞いたことはないだろうか。
数脈(90回/分以上)の人は、遅脈の人より短命と言うことである。
ゾウの時間ネズミの時間」(中公新書、筆者:本川達雄)によると、ほ乳類は、心臓が一定数打つと一生を終えると書いている。
人間もほ乳類の仲間なのだから、この説は、人間にも当てはまるのだろうか。
常識的に考えてもこの説は人間にも当てはまりそうである。
身近な例として、針金を手で切断する場合がある。
針金は、両方の手でかなり早く曲げ伸ばしを繰り返すと切断する。
同じ時間をかけても、かなりの回数を素早く繰り返すとそのうちに曲げ伸ばしをした部分は弱くなって、そこから切断する。
心臓の心筋も伸縮を早く繰り返していると早いうちに疲労して駄目になるだろうとは容易に想像できる。

東邦ガス診療所(名古屋市)の林博史所長は、時間生物学の概念を取り入れ、哺乳類ごとの体重や心拍数、心周期(1心拍にかかる時間)と寿命との関係を分析し、人間が一生の間に打つ心拍数は「23億回」とはじき出した。
この説によると、人間の寿命は下記の数式で示されるそうだ。
 寿命(年)=4376÷(1分間の脈拍数)

ちなみに、心拍数が70回/分だと、寿命は、62.5年になる。
ただし、心臓病の専門医の間では、人間の一生の心拍数に決まった限界があるとの考えに否定的な意見が多いそうだ。心拍数の増減は自律神経に左右されており、一部の不整脈のように心臓自体に問題があることは少ないからというのがその理由。

また、脈拍を速くする主な要因として以下の4つがあげられる(いずれも自律神経のバランスを崩す)。
(1)喫煙 (2)肥満 (3)高血圧 (4)糖尿病
従って、脈が速いから短命になるのではなく、速い人は生活習慣病を抱えている場合が多く、結果的に死亡リスクが上がるとしている。

東京都済生会中央病院の三田村秀雄心臓病臨床研究センター長も「心拍数は1分間70回前後が適切だが、何年も前から速い、遅いのであれば、それほど深刻に考える必要はない。むしろ脈は健康状態をみるマーカー。安静時でも急に速くなった状態が続くようだと、体に異変が起きているかもしれない」という。

「毎日、分速80メートルの早歩きを最低20分続ける。3~4カ月たつと、脈拍数は5~10減る。マラソン選手のように心臓が鍛えられるわけではないが、自律神経の過剰反応は抑えられる」と助言する。

(日経新聞web版、9/12付け 「脈速いと短命」は本当?)